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栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
41
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

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 第4回KAVALAN・島田荘司推理小説賞の入選作品。作者の薛西斯はこれの他にも2013角川軽小説小説大賞で銅賞を取り既に作家デビューを果たしている模様。



 作者の名前を検索したら『クセルクセス王』の中国語名と同名らしく作者本人の情報がなかなか見つからなかった。もし本作を日本語訳した場合、作家名は『クセルクセス』になるのだろうか。



 人工知能を使用したオンラインファンタジーゲーム『H.A.』は人間とほぼ変わりないNPCとリアルなグラフィック、なんでもできる自由度の高いゲーム性が売りだが現在運営方法を巡り新しくやってきたプロデューサーの朱成璧と以前からのプロデューサーでありこのゲーム開発の中心人物である李詩庄との間で意見の食い違いが起きていた。PvE(Player vs Enemy プレイヤーと敵との戦闘)エリアを抹消してゲーム内全てのエリアをPvP(Player vs Player プレイヤー同士の戦い)にしたいという李詩庄の主張は村や城までの全エリアがプレイヤーの戦場になるという意味であり、現在のゲーム世界を守りたい朱成璧には絶対に受け入れられない提案だった。
 この案が通らなければ会社を辞めるという李詩庄に対し朱成璧はある勝負を持ちかける。それは『H.A.』のPvEエリアでプレイヤーキルをしてみせるという内容だった。朱の『犯人チーム』は通常ならばプレイヤー同士傷付けられないPvEエリアで李のチームを殺し、その方法がバレなければ勝ちとなり、李の『探偵チーム』として自分たちがどうやって殺されたのかを突き止められたら勝ちとなる。
 ファンタジーゲームの世界を舞台にした推理ゲームが始まる。



 仮想空間を舞台にした中国ミステリとなると嫌でも思い出してしまうのが第1回島田荘司推理小説賞大賞作品の『虚擬街頭漂流記』だろう。その作品では仮想空間となった台湾の一部でプレイヤーが何者かに殺され、それに伴い現実でも被害者が出るという仮想と現実が連動していた世界だった。
 だから私は今作が携帯電話やネットからは逃れられない現実を舞台にするのを諦め、仮想空間に陸の孤島や雪山の山荘などを作ってそこでプレイヤー同士が完全犯罪を成し遂げる『バーチャルリアルかまいたちの夜』を展開する作品かと思った。しかし作者のスケールは私の想像を遥かに超えていた。


 本作は現実世界とほぼ同じことができる驚異的な自由度を背景にした現実さながらのファンタジーゲームの世界を舞台にしている。そして各人が魔法使いや妖精、モンスターなどのプレイヤーキャラクターとなり、それぞれの特性や魔法がトリックの要となるわけだが、これは単に事件の舞台がファンタジー世界に移ったというわけではない。
 朱ら『犯人チーム』は本来ならプレイヤーを殺すどころか傷付けるのも困難なPvEエリアの中で殺人を実行するためにいわばバグに近いゲームの盲点を見つけ出さなければならず、一方李ら『探偵チーム』も『H.A.』のシステムや法則を熟知している必要がある。つまりここで描かれる事件とは現実世界でもファンタジー世界でも実現できない、ただ『H.A.』の中でのみ成立する完全犯罪なのである。



 本作では『虚擬街頭漂流記』のように現実と仮想双方で事件が発生して両者が関係し合うということもなければ、岡嶋二人の『クラインの壺』のように両者の境目が徐々になくなるということもない。

 朱も李もゲーム世界では敵味方の関係で現実でもとりわけ仲が良いという間柄ではないが、それでもゲームが終われば一緒に御飯を食べたり、今後の展望などを話す関係であり、ゲーム内の殺し殺される関係は純粋たる勝負に過ぎず現実世界に波及することはない。だが勝負が真剣であるがゆえに登場人物たちの異常性は突出する。朱は一つの犯罪を実現させるために何十回もテストランをする人間であり、つまりリアリティの高いゲームにおいてほぼ実際の人間と等しい存在感を持つキャラクターを何十人も殺してのける冷酷な女性という印象を読者に与え、一般ミステリ小説の殺人犯と立場は変わらない。



 本書の後書きに掲載されているレビューで島田荘司は綾辻行人の『十角館の殺人』と本作を比較して新本格ミステリについて触れているが、未來の科学技術を使用して犯罪があくまでゲーム内でのみ完結している本作は島田荘司の言う21世紀本格推理にふさわしいのだろう。


 第4回KAVALAN・島田荘司推理小説賞の入選作はみな粒ぞろいという話を聞いたが偽りはなかった。では大賞受賞作の『黄』はいったいどれほど面白いのか。本当に楽しみである。


 以降雑記

 本書と同じ入選作である『熱層之密室』は2016年10月末に百花文芸出版社から発売予定であるが大賞作『黄』は現在もまだ発売日未定の状態である。また『黄』は南海出版公司から出る予定であり、一次予選突破作品である王稼駿の『阿爾法的迷宮』が新星出版社から出ているのが非常にチグハグな印象を受ける。

 調べると第1回の大賞及び入選作『虚擬街頭漂流記』、『快逓幸福不是我的工作』、『氷鏡荘殺人事件』は共に当代世界出版社から出ているが、以降の第2回の三作品と第3回の三作品はどれも大陸で出版されていない(?)ようだ。その中でも賞の常連である王稼駿の作品はあちこちの出版社からコンスタントに出ているが、第4回になり入選作がまた大陸でも出るようになったらしい。

 中国語で書いている作品を対象にしている以上、やはり入選作品以上は台湾のみならず大陸でも出版してほしいものである。
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