島田荘司推理小説賞常連入選作家・王稼駿による『第4回KAVALAN 島田荘司推理小説賞』の入選作。ようするに今回も駄目だったよということだが、4回やって一度も最終候補作に選ばれていないの原因は単なる実力不足なのだろうか。
他人の大脳の中に侵入して、現実と変わらない大脳の中の世界を動き、被験者から情報を得ることができる『阿爾法的世界(アルファの世界)』というバーチャル空間がある近未来(?)で、科学者である童平は連続少年失踪事件の重要参考人・莫多の大脳に潜入する。
莫多の大脳の中で少年の姿となり犯人に近づきピンチを迎える童平。アルファの世界で致命傷を負うことは現実世界での死を意味するが、実験は正規の手続きを経ずに中断される。命の危険に晒された童平は実験に協力している同僚に疑惑の目を向けるが、その同僚からは童平の妻こそ怪しい点があると言われて揉めている帰り道に人を跳ねる。そして口封じに同僚を殺した彼は同僚の大脳の中に潜入し、ついにアルファの世界の中でも殺人に手を染めることになる…
岡嶋二人の『クラインの壺』のように現実と仮想の境目が徐々にわからなくなってくるという定番の話ではあるが、本作の物語は展開が急で交通事故で人を跳ねたと思ったら今度は同僚を殺し、ついに妻に手をかけたら部屋に全くの新キャラである泥棒が侵入してくるというメチャクチャぶりである。
王稼駿は腹に一物隠している人間同士の関係を描くことが多いが、ひとつの物語の中に一見全く関係のなさそうな話を挿入してくるのも作風のひとつである。作品によっては小さな話と本筋の繋ぎ方が牽強付会に見えるものもあるが、本作ではその驚かされこそすれ、意味不明な繋げ方という印象は受けなかった。
さて、『第4回KAVALAN 島田荘司推理小説賞』の受賞作品が発表されて、中国大陸では第1回以来となる受賞作品及び入賞作品の出版が決行された。先日レビューした『H.A.虚擬戦争』と同じく最終候補作の『熱層之密室』が百花文芸出版社から出ており、2冊とも後書きには島田荘司によるコメント及び落選の理由が書かれている。
島田荘司が目を通すのは最終候補3作のみであるので本作が何故落ちたのか、その理由は多分どこにも出ていない。まぁ作者の元には審査員のコメントが届いているのかもしれないが…
ここらへんが明らかになれば中国大陸における本格ミステリ研究が進みそうなのだが…