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プロフィール
HN:
栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
37
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

 Mail: yominuku★gmail.com
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このブログは、友達なんかは作らずに変な本ばかり読んでいた二人による文芸的なブログです。      
  


 『逆時偵査組-凶手何時来訪(タイムトラベル捜査班-犯人はいつ来る)』。このタイトルから察せられる通り、ジャンルとしてはSFミステリー小説だ。しかしタイムリープ能力を駆使した捜査が重点で、科学的に難しいところはない。




 敏腕刑事の路天峰は、10年前から自分では制御不能なタイムリープ能力を身に付け、不定期的に1日を5回繰り返していた。彼はその能力を使って難関の警察大学の受験に合格し、刑事になってからはそれを駆使して重大事件を未然に防ぎ、順調に昇進を果たしていた。「RAN」という遺伝子治療法研究で名を挙げているバイオ企業・風騰ゲノムの幹部が立て続き殺され、社長の駱騰風に犯人「X」から脅迫状が送られたことで、路天峰は彼の護衛を命じられる。そして4月15日、駱騰風の存在をよく思わない団体「逆風会」から次々と刺客を送られるも無事護衛の任務を果たした路天峰は、16日を迎えることなく2度目の15日を迎える。そして4月15日を繰り返し、新たな真実が次々と明らかになり、駱騰風を狙う手段がますます複雑化する中、路天峰は「X」もまたタイムリープをしているのではないかという疑いを強めていく。

 主人公の路天峰はすでに10年間タイムリープ能力と共存しているので、この超能力に戸惑ったりその原因を突き止めようとしたりする描写はなく、展開がスムーズだ。刑事なのに自分でコントロール不可能な超能力をあてにしているのはどうかと思うが、彼にとって同じ1日を5回繰り返すというサイクルはもう不動であり、本作でもその法則が崩れることはない。


 同じ1日が繰り返されるたびに事件をより詳細に調べ上げ、最後の5回目までに完璧な作戦を立ててどんな重大事件でも犠牲者を出さずに解決するというのが路天峰の手法だが、その異常なまでの事件解決能力は当然上司や部下から怪しまれる。だから警察には、絶対秘密で信頼できる「情報提供者」が外部にいるという設定で通しているが、前回のタイムリープで新たに容疑者リストに加わった人物を次のタイムリープでいの一番に捜査する際、全くノーマークだった人物の捜査を急に命じられた部下は、やはり不気味に思うだろう。

 本作では、「RAN」という遺伝子治療法を研究開発する風騰ゲノムトップの駱騰風を中心に据え、彼の警護期間中に事件が多発する4月15日を路天峰が繰り返す。タイムリープするたびに新たな事実や関係者が現れ、事件の謎は深まるばかりか、路天峰の恋人で風騰ゲノムの科学者・陳諾蘭まで事件と重要な関わりを持ち始め、路天峰はますます疑心暗鬼に陥る。謎を次々に登場させることで、読者の目を「そもそも路天峰がタイムリープできる理由は?」という疑問からそらしているのかもしれない。


 そして一連の事件を捜査する中で、数々の関連事件が起きた日付が、自分がタイムリープした日と同じであることに気付き、犯人「X」もまたタイムリープで何度も同じ一日を繰り返し、完全犯罪を実行しているのだと悟る。


 結局のところ、路天峰一人がタイムリープを繰り返し、その都度部下に様々な情報を集めさせて次の「当日」の対策を練ることと、時間経過と事件の展開に従って指示を出すことにあまり違いはないのだろう。
 

 タイムリープするたびに捜査側としてのアドバンテージを高めていく設定は『All You Need Is Kill』っぽいが、今回の事件でのネックは犯人側もタイムリープを使えるということ。だから路天峰と「X」が4月15日を5回繰り返す中で、相手の裏をかこうとどんどん策略を張り巡らせた結果、最悪の事態を引き起こしたといってもいい。


 長年「そういうもの」だと思って深く考えたことがなかったタイムリープ能力の理由も「X」の正体も重要だが、終盤になって「逆風会」とは異なる組織の存在がほのめかされ、この巻では到底全ての謎を明らかにすることは不可能になった瞬間、物語は次巻に続くことが確定する。事件の背後に謎の組織を据えてシリーズ化するのは大嫌いなので、2巻を買うかは不明だ。ちなみに2巻では路天峰の能力が強化され、3日前にタイムスリップするらしい。


 そして2巻はもう間もなく出るとのこと。中国ミステリー界隈は最近、1巻出したらすぐに2巻を出すという売り方をしているが、これは出版社の販売戦略と作品の長文化がうまい具合に一致した結果なのかもしれない。
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 筷 怪談競演奇物語

 

 

 

 三津田信三や陳浩基といった日本、台湾、香港の5人の作家が「お箸」を題材にしたリレー小説を繰り広げるというホラーミステリー集だ。どうでも良いけど、リレー小説って中国語で「接龍小説」って書くの、カッコいいなって思った。

 

 以下、ラインナップ

 

『筷子大人』(おはしさま)
       三津田信三 翻訳担当:RAPPA

『珊瑚之骨』(サンゴの骨)
      (台湾)薜西斯 

『咒網之雨』(呪いのネットに降る雨)
      (香港)夜透紫 

『鱷魚之夢』(ワニの夢)
     (台湾)瀟湘神 

『亥豕魯魚』(間違いと混乱)
     (香港)陳浩基 

 

 (注)『おはしさま』のタイトルは三津田信三のツイートを参考し流用。それ以外は仮訳。

 

各話あらすじ紹介

 

 『筷子大人』(おはしさま)

 あるパーティに遅れてやって来た雨宮里深と名乗る女性が、今から約20年前、彼女が小学5年生だった頃に体験した事実を語るという体裁の怪談的な短編。

 春休み明けに関西からやってきた音根(ねこ)君という少年。音根君は給食時、手作りの竹のはしをご飯に突き刺した。それが不吉な習慣だと知る私は、音根君にわけを尋ねると、彼は「おはしさま」という儀式とそのやり方を教えてくれた。

 ちょうど叶えたい願いがあった私は親らを説得してこの儀式を続けていると、ある夜から定期的に不思議な夢を見ることになる。道場のような場所で、音根君に似た男子など9人の子どもたちが寝ているという内容で、夢を見るたびに誰かが死んでいった。

 

 『珊瑚之骨』(サンゴの骨)

 占い師海鱗子のところに、過去に起きたはしにまつわる超常現象について程という女性が相談にやってくる。分野違いだと遠回しに追い返そうとする海鱗子に彼女は、「あなたから答えを聞きたいのです」と言い、15年前の昔話をする。

 好きな人と同じはしを使い、相手のはしとこっそり交換し、3ヶ月間相手にバレなければ両思いになるというおまじないが流行っていた中学校で、程さんは「天使」と呼ばれているおとなしい少年のことが気になり、彼のはしを狙う。だが彼のはしは、頭がチェーンで繋がっていて、しかもそれをいつも胸元にぶら下げているので交換の隙がない。しかも高価な珊瑚でできている真っ赤なはしで、同じ物を用意することなど不可能だ。どうしても貸してほしい程さんは彼に頼むが、このはしは王仙君という神様が宿っている大切な物だから絶対に貸せないと言われる。そこで程さんはチェーンで繋がっているはしの片方を盗む方法を考え出す。

 

 『咒網之雨』(呪いのネットに降る雨)

 林麗娜、龔霆聰、李一志、葉思婕の4人はライブチャンネルを運営するネットインフルエンサーグループだった。林麗娜の恋人の龔霆聰はチャンネルの登録者を増やすため、「鬼新娘のはしの呪い」という都市伝説を捏造する。鬼新娘という幽霊が出ると言われる新娘潭に、ご飯を盛ったお椀を置き、呪う相手の名前を書いたはしを刺せば、鬼新娘がその魂を地獄に連れて行くという内容だ。

 この都市伝説は香港で大流行し、ネタバラシをした龔霆聰は一躍有名人になったが、同様に大量のアンチを生み出し、彼らの事務所には呪いのはしまで届くようになった。そして呪いなどないと言い張る龔霆聰は、その証拠として差出人不明の呪いのはしを使って生配信中に食レポをするが、突如苦しみ出して苦悶の表情を刻んだまま絶命する。

 アンチの矛先は残りの4人に向けられ、特に龔霆聰の恋人だった林麗娜はネットでの誹謗中傷に悩まされていた。そんな中、林麗娜の携帯電話に、「鬼新娘」を名乗る人物からメッセージが届く。

 

 『鱷魚之夢』(ワニの夢)

 民俗学や妖怪に詳しい推理小説家の「私」は、出版社が台湾、香港、日本の作家を集めて企画した「はしにまつわる怪談」をテーマとするリレー小説に参加し、4話目を担当することになる。そして、はしのタブーに関するイベント終了後、張文勇という記者から「おはしさま」という日本の怪談を教えられる。それは彼女が敬愛するM先生が自身のTwitterで言及していた怪談だった。

 張文勇は、台湾や香港でもはしにまつわる都市伝説が流行っていることを伝えただけでなく、「おはしさま」の夢に出てくる空間の間取りが、台湾に昔あって今はダムに沈んでいるBという国立小学校の構造に酷似していると告げる。その小学校では以前、9人の5年生のうち8人が行方不明になるという怪事件があった。そして「おはしさま」の儀式中の夢に登場する子供も9人。真相を確かめるため、「私」は張文勇とともにすでにB小学校へ向かう。

 

 『亥豕魯魚』(間違いと混乱)

 「おはしさん」の儀式を行い、84日間生き延びた張品辰が叶えたかった願いとは、交通事故で意識不明のままとなっていた聶暁葵の目覚めだった。当時の事故の原因が自分であると責めた張品辰は、香港にいる探偵の阿文から「おはしさん」の儀式を聞き、無事成功させて聶暁葵を目覚めさせる。だが、自称九龍(クーロン)一の名探偵で、超常現象を専門に研究する阿文は、聶暁葵の事故に何らかの悪意が働いていると言う。3人ははしの呪いを終わらせるべく「おはしさま」と対決する。

 


 


 


表紙や文章描写はちょっと怪談テイストだが、自分の障害すらも利用して悪党相手にしたたかに生きる盲目の楽師の復讐劇を描いた歴史ミステリーだった。


 





民国時代初頭の北平(現在の北京)、盲目の楽師・聞桑生は師匠の独眼竜とともに琴の弾き語りなどをしながら生活していた。ある日、独眼竜は何者かと口論した後、聞桑生が不在の夜に火事で死ぬ。死んだのが流浪の楽師ということもあり、警察はろくな捜査をせず失火による事故死として処理する。一人になってしまった聞桑生は、事件当日に師匠と会話していた男を探して師匠の敵を討つため、夜な夜な開かれる非合法の「鬼市」(闇市)で情報を集める。高価な代物もいわくつきの物も何でも売買されるその場所で、彼は「報喪烏」という不吉な名を名乗り、裏社会のボスや名妓、さらには官憲たちとも渡り合っていく。





 


目が見えないというハンディキャップを持つ聞桑生は、報喪烏の時にはできるだけ他人に自分が盲目と悟られないように振る舞い、悪党相手には決して弱みを見せようとはしない。そして視覚の代わりに常人より優れている嗅覚、聴覚、触覚を使って他人の行動を言い当ててみせる姿はさしずめ盲目のホームズだ。腕っぷしもあるが、直接殴り合ったりすると負けてしまうので、喧嘩になる前に言葉で相手を言いくるめる手腕も見事だ。


才能や度胸が人並み以上の聞桑生には彼を慕う仲間が集まり、事件の真相に近付くにつれて一癖も二癖もある裏社会の人間が次々に彼に協力する。しかし一方、目立ちすぎたせいで鬼市を牛耳る「死人王」に目を付けられた彼は、30日以内に師匠殺しの犯人を探し出せなければその配下になるという条件を飲まなければならなくなる。


聞桑生が次に誰と出会うのか分からない、次に何と遭遇するのか分からないという状況をつくるのが上手く、また各キャラクターのほどほどに現実離れした設定も上手い。物の手触り、人の声、珍しい匂いなどを頼りに真相に近付くという、目が駄目ならそれ以外を活用するしかない当たり前の展開なのだが、一般人には無関係の裏社会を盲目の男が、一般人以上に慣れた様子で渡り歩いていくというアンバランスさが本作最大の特徴であるだろう。しかも聞桑生がなかなか親切で、他人に助けられるどころか逆に鬼市での買い物の仕方などを人に教えてくれるのだ。


続刊を匂わせる終わり方をしたのが気になるが、まさか師匠の敵討ちから民国時代の歴史的陰謀に関わる内容になってくるのだろうか。

 


 


作者の陸燁華と言えば、ユーモアミステリーが主で、特にキャラにくどい掛け合いをやらせるのが上手というイメージなのだが、今回はそのような笑いの要素が少ない。本作では、日常に何か異常が起きているはずなのに誰も核心に触れられないという奇妙な空気感を描き出している。第三者から見ると特に大きな事件が起きていないので、長編の日常ミステリー小説だと言える。


 


 





コーヒー専門雑誌の会社で働く編集者の張悠悠は、担当しているコラムの執筆者が急病になり、このままでは誌面に穴を空けてしまう。締め切りまでもう時間がないというところに差出人不明の原稿が届く。内容は短編のミステリー小説で、同じ部屋に侵入した泥棒二人が殺し合うという中途半端なところで終わっていた。同僚の江月に読ませたところ、悪くはないということなので、それを載せることを決定。以降彼女のもとには毎週、作者不明で作品同士に関連性が見えない短編ミステリーが寄せられる。そしてコーヒー専門雑誌にミステリーを載せた張悠悠の社内での評判は高まり、次期編集長を期待されるようになる。だが張悠悠の周囲の人間は、差出人も意図も不明な投稿に不安を覚え、また作品内の事件が現実の事件とわずかにリンクしているように見えることにも疑念を抱く。投稿者の目的は一体なんなのか。





 


 


・変な原稿が届くだけ


誌面の埋め合わせを探していた編集者の手元に差出人不明の投稿原稿が届くという、いかにも都合の良い展開は誰に対してメリットがあるのかと考えたら、答えは自ずと出てくる。


 


張悠悠にはいかにも怪しい要素がてんこもりで、彼女が作品の中心人物であることは最初から明らかなのだが、この「事件がない事件」における立場が不明確だ。それが探偵(喫茶店店長)の推理によって彼女の役割が明瞭になり、また無関係に見えた短編同士にわざとらしいほどの関連性が見える。かくしてこの「事件」は、短編ミステリーを書いたのは誰かといういとも単純な作者探しに着地するのだが、探偵が指摘する動機が非常にドメスティックかつグロテスクで、場の雰囲気を支配する説得力がある。この推理に説得力を持たせているのは、中国人ひいては世界中の家庭が昔から持つ美しい家族愛だ。しかし、現代の上海を舞台にした作品にとって、伝統が事件の核心となるのは不自然であるため、よく組み立てられた推理も結局は一蹴される。


 


まだページが残っている後半で披露される推理はたいてい覆されるものであり、本作でも探偵自身が終盤に自らの推理の欠点を列挙して否定している。だがメタ的に本作を見ると、推理が失敗している一番の理由は「作品のテーマと合っていない」ということに尽きる。


 


・女性の活躍が謎に?


本書で重点的に描かれているのは大都市上海に生きる張悠悠の奮闘ぶりで、彼女の周りには会社での立場、夫との仲、さらには経済や生活面など、現代に働く女性にある程度共通する様々な問題が取り巻いている。本書は単純に女性が主人公なのではなく、女性編集者が自らの力を発揮してより良い生活を掴むところを描いた日常ミステリー小説なのだ。


 


だから探偵が自らの推理を翻し、再度披露した第二の推理で明かされる真実こそ本作の最適解で、それは張悠悠への表彰になる。しかし作者は第三の推理の機会を読者に与えている。


 


三人称視点で書かれている本書でこの第二の推理を採用する場合、アンフェアというか確実に作者のミスとも言える矛盾点が無視できなくなる。だが作者の正しさを信じて第三の推理を開始すれば、そこから導き出される犯人こそ本書の真の解答となる。しかしそれは張悠悠の努力を否定し、栄誉を剥奪することになる。


 


作者の陸燁華は本書の扉に「本書を妻に捧げる」と書いてある。それがなぜ女性編集者の力不足を暗示する結末にしたのか。まだ女性が十分に活躍できない現実や、男性側のエゴイズムを書いて、作品を決して円満に終わらせない狙いがあったのかもしれない。


 


・突然推理を始める探偵


本作は「突然推理」という概念を提起している。実際に死体も出てきておらず、事件らしい事件すら起きていないのに突然誰かが推理を始めて、隠されていた真実を明らかにするというものだ。作者は「突然推理」は自分が初めて提起したものではないとし、梓崎優の『凍れるルーシー』などもそうだと挙げている。誰もが漠然と意識しているが明確化されていなかった謎は、誰かに推理されることで初めて形を得るが、被害者も加害者もいない事件では何よりも探偵の発言権が強くなり、探偵によって場がコントロールされる恐れがある。だが本作では突然推理を始めた探偵も「犯人」に出し抜かれており、日常ミステリーにおける探偵の強制力の弱さを痛快に描いている。


 


本書を出版した人民文学出版社の上海九九読書人の「黒猫文庫」というレーベルからは今後も中国ミステリーが出る予定だが、1作目にいきなり作者のこれまでのイメージを覆す作品を持ってきてくれたので、後続の作品が楽しみだ。


 

 


 


『笨偵探』、直訳すれば「バカ探偵」という意味だが、この作品の中でバカなのは探偵一人ではないし、この「バカ」が探偵だけを意味しているわけでもない。ストーリー自体が荒唐無稽でバカげていて、どうしようもない連中が一箇所に集まったことで起こる喜劇なのだが、複数の人生に不幸が生じているので軽々しく笑えない。結構一筋縄ではいかないユーモアミステリーだ。『人狼ゲーム』をモチーフにしているらしいが、そのゲームのことを全然知らないので本作の楽しみをだいぶ見逃してしまっているかもしれない。


 


 





自称「名探偵」の田豊大は、浮気調査のターゲット韓国棟を尾行するために彼と一緒に観光バスに乗る。だがそこに偶然乗り合わせた自称「名探偵の助手」の少女羅小梅らに自分の正体をバラされ、韓国棟に窃盗犯と間違われて騒動になる。しかもバスがパトカーと事故を起こし、乗客全員がホテルに避難することになり、尾行どころではなくなる。さらに事故を起こしたパトカーに乗っていたのは田豊大の天敵の警官・薛飛で、彼はホテルで事件が起こるたびに最も怪しい容疑者とされてしまう。ホテルの宿泊客のほぼ全員が後ろめたい過去を持ち、誰もが探偵を都合の良い犯人に仕立て上げようという四面楚歌の中、田豊大は事件を解決できるのか。





 


 


そもそも何の事件の捜査だったか……と忘れてしまうぐらい、クローズドサークル状態のホテルで色んな問題が現れて、各人物の正体が明らかになる。警官のフリをした指名手配犯、ミュージシャンに見える麻薬の売人、画家を名乗る殺し屋などなど、ほぼ全員が悪人という環境だ。さらに韓国棟はそもそも製薬企業にコネ入社した幹部社員で、薬事法違反で逮捕されるのを恐れ、逆に会社の機密情報を盗み出して高跳びしようとしている人物だ。浮気よりよほど大きな秘密を抱えていて、その秘密のために彼もまた他の宿泊客の思惑に巻き込まれていく。


 


本作では警官も探偵の味方ではなく、田豊大と少なくない因縁を持つ薛飛は「探偵は違法だ」と正論で攻めてきて聞く耳を持たないし、積極的に逮捕しようとしてくる。


田豊大は捜査に協力的な人物がほぼいないアウェイで推理を展開しなければいけない。なのに彼の披露する推理はことごとく外れているばかりか、彼を陥れようとする人物や彼自身の推理ミス、そして不運によって、自分が犯人だと主張する結果となってしまう。


 


本作では、「名探偵だと言い張る凡人」に対する「イジメ」が、ミステリー小説の定石に従ってこれでもかと行われる。冤罪になろうが犯人に間違われ暴力を振るわれようが決してへこたれない田豊大の打たれ強さが本作の救いではあるのだが、総掛かりで自分の推理の欠点を指摘されたり揚げ足を取られたりする彼を見ていると、新堂冬樹小説の暴力描写を読んでいる時のような乾いた笑いが出てくる。


そして虐げられる彼を通して見えてくるのは、これまで推理の間違いを犯して、一時的とはいえ他人を犯人扱いしても謝らずに責任を取ることがなかった無数の探偵の姿で、彼の災難はそれらの被害者に対する罪滅ぼしだ。


 


全員が田豊大に悪意を持っている中、唯一の味方と言っていいのが自称助手の羅小梅だ。しかし勝手に助手を名乗る羅小梅に田豊大は冷たく、羅小梅はマイペースにどんどん行動するという凸凹コンビぶりを発揮。こうして見ると田豊大の不幸は全て彼自身が原因であり、行動のミスに比べれば推理のミスなど取るに足らないことに思える。結局彼が「バカ」なのは「探偵」であること以前に、疑われたり信頼されなくなる言動にあり、「名探偵」であるという自負やプライドが自身をますます窮地に追い込む。


 


 


ところで作者の亮亮には10:中国ミステリ小説家・亮亮インタビューでインタビューしたことがある。



 


その後ほとんど長編小説を発表しておらず、また作品が映像化されるという話もあったので、てっきり脚本家に転向したかと思っていた。しかし本作あとがきによれば、映像化予定の脚本製作が難航し、流れてしまったらしい。本作も映像化には向いていそうだが、イジメられる田豊大を映像では見たくはないなぁという思いもある。


 


本作はユーモアミステリーという括りになるのだろうが、実際はもっと怖いブラックユーモアサスペンスだ。推理に誰も耳を傾けず、捜査に誰も協力してくれないというアゲインストな環境でもめげずに探偵として振る舞う田豊大は、やはり「名探偵」の素質があるのかもしれない。


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