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栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
35
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

 Mail: yominuku★gmail.com
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このブログは、友達なんかは作らずに変な本ばかり読んでいた二人による文芸的なブログです。      


 神探福邇,字摩斯(名探偵フー・アル、あざなはモースー) 著:莫理斯

 1800
年代の中国清朝末期に辮髪のホームズがいた?彼の名前は「福邇」(フーアル)、字(あざな)は「摩斯」(モースー)。光緒年間、イギリスの植民地だった香港を舞台に、元軍人で医者の「華笙」と共に彼は警察も手を焼く難事件の数々を解決する。


 


 


香港の中国ミステリです。


中国語では非漢字圏の外国人の名前は音訳して中国語に表記されます。ホームズは「福爾摩斯」(発音はフーアルモースー)、相棒のワトソンは「華生」(ホアション)という表記になります。


本書は満州族で辮髪の名探偵「福邇」(福が名字)と偶然香港で知り合ってしまった「華笙」(華が名字)が彼と遭遇した様々な事件を記録した文書を、杜軻南(ドゥークゥナン、コナン・ドイルのもじり)という編集者が出版した『神探福邇全集』を整理して、現代で改めて出版したという体裁の短編集です。


 


収録作品をざっと紹介します。


 


血字究秘


怪我で軍隊を辞めた華笙は居留先の香港で福邇と言う物事全てを見通す男と出会う。そのとき殺人事件が発生し、警察に協力を求められた福邇と共に現場に向かう華笙はそこで「仇」と読める血のダイイングメッセージを発見する。


 


紅毛嬌街


アパート経営する老人季連徳のところに同じ一族だと主張する若者・季連昌が訪れ、家系図を写したいのでその間部屋を貸してくれと頼まれるが、いつまで経ってもその作業が終わらない。更に、アパートに住む西洋人の女性の挙動もおかしく、季連徳は福邇を有名『占い師』と見込んで彼らが何をやっているのか教えて欲しいと依頼する。


 


黄面駝子


スコットランド人の孟離窶(中国語名)はイギリス人の恋人・夏伊芙(中国語名)がイギリス人の退役軍人・バークレーから脅されているようなので、福邇に彼女を守って欲しいと依頼する。福邇と華笙が夏伊芙の調査をすると、彼女の周りに「駝子」(くる病患者)の中国人男性が潜んでいることに気付く。そして数日後、バークレーは遺体となって発見され、その駝子が容疑者として捕まっていた。


 


清宮情怨


お忍びで香港を訪れている清朝の王子から、金の指輪を盗んだ女性を捕まえるよう頼まれた2人。女性を見つけた福邇らだったが、王子はもとからその女性を殺すつもりで護衛の兵士に福邇たちを尾行させていた。福邇は女性の命を救うためにその兵士らとやりあうことになる。


 


越南譯員


フランスのために仕事するベトナム人華僑・陳が福邇を訪れ、同じく華僑の阮が何者かに誘拐されたと訴える。福邇は、辮髪もなく外国のために働く売国奴など助ける必要もないと怒る華笙をなだめながら、誘拐されたという証拠もないので力にはなれないと依頼を断る。しかし翌日、警察が訪れ、昨日誘拐された阮が解放され、代わりに陳が誘拐されたと知らされる。


 


買弁文書


欧米諸国と貿易する商人の何東は社員を募集する商社の社長・馬に賀という人物を推薦する。しかしその後、賀のもとに電報で馬の商社以上の好条件の仕事の紹介と、このことは誰にも言うなという警告がセットで届く。賀を馬の商社に推薦することが第三者にバレていたのではと疑う何東は情報流出を疑い福邇に調査を依頼する。


 


 


各話はおそらくホームズ作品のパスティーシュになっています。血字究秘」は「緋色の研究」、紅毛嬌街」は「赤毛組合」、「黄面駝子」は「背中の曲がった男」、「清宮情怨」は「ボヘミアの醜聞」、「越南譯員」は「ギリシャ語通訳」、「買弁文書」は「海軍条約文書事件」でしょうか。


 


 


福邇は原作同様、頭脳明晰であるばかりか当時最先端の科学技術も知っています。多言語に通じ、共通語の他に香港の広東語、留学先で学んだ英語、日本にも留学していたことがあるので多分日本語も可能という人材です。付け鼻とカツラを付ければ西洋人にもなれるという変装術を持ち、腕っ節も強い。本家ホームズとは違い、コカインではなくアヘンをやっているという当時の情勢を忠実に再現した(?)ちょっと危ない描写もありますが、清朝もイギリスも認めるほどの優秀な人物であることは間違いありません。


 


華笙の方も検死ができるし、人情味があるという設定で観測者としてよく周囲を見ています。基本的に外国人とも仲良くしますが、国際情勢における中国を憂いる愛国者でもあり、自国のために行動しない中国人に対して結構感情的です。


 


漢字がミスリードのもとになっていたり、方言が重要な鍵となっていたり、香港の言語や文化に理解がないと楽しむのが難しい一方で、当時の中国人は夜に自由に外出できなかった(外出証を持っていると可能)など、中国が置かれていた状況も知ることもできます。


本書は「第1集」という体裁ですので今後続編が出るのか期待。でもこれってシャーロック・ホームズの精巧なパロディということを考えるとずっとその路線で行くのはかなりしんどそうですね。


 

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天野健太郎氏による日本語版が文藝春秋から出て、2016年後半から日本でブレイクした1367の原書(香港版)を読み終えました。2014年に原書が出版されたばかりの頃は全く反応しなかったのに、日本で売れたら慌てて読み始めるなんて典型的なミーハー的行動だなと自分でも思います。中国大陸でも最近になって一部の書店には繁体字版(香港や台湾で使われている中国語表記)の原書が置かれるようになりましたが、大体がライフスタイル関係やグルメなどおしゃれな書籍ばかりで、ミステリなどエンタメ書籍を大量に置いてある書店はまだ少ないです。しかもそのミステリも京極夏彦ら海外作家の繁体字版ばかりで、オリジナル作品がほとんどないというのが現状です。


 


なので、今回もいつも通り中国大陸のオンラインショッピングサイト「タオバオ」を使って大陸の代理店に香港から本書を取り寄せてもらいました。去年に注文してから届くまで1カ月ぐらいかかりました。値段は送料込みで90元(1600円)ほど。本体価格は350ニュー台湾ドル(約1300円)なので全然差がない。


 


 


 


本書は6編の短編小説からなり、2013年から1967年までの香港社会を舞台に、事件の一部始終をまるで見てきたように推理する「天眼」と呼ばれた敏腕刑事関振鐸が各時代の香港を象徴したような事件を解決するという警察ミステリ小説です。第1話が関振鐸の晩年、第2話が引退後の関振鐸、第3話が引退間際というように時間に逆行する構成になっていて、最後は1967年の香港暴動です。


 


日本語版が去年出ているのですでに詳しく書かれたレビューがたくさんあるでしょう。また、翻訳者自身が書いた紹介記事もあります。


 


陳浩基(ちんこうき,サイモン・チェン)『13・67』(執筆者・天野健太郎)


  


中国大陸側の反応を見てみますと、日本で「2018本格ミステリベスト10」や「2017年 週刊文春ミステリーベスト10、本格ミステリ・ベスト10」などの海外部門で1位を取ったことが中国のミステリ読者ほか多数の人々から注目されたようで、私がそのランキングトップの報を微博(中国版Twitter)に発表したところ一気にリツイートされ、10万回以上の閲覧数を叩き出しました(普段は300回ぐらい)。「日本で評判なら読んでみよう」というコメントもあり、ミステリにおける日本の信頼度の高さを実感しましたが、だからといって大陸でいきなりブームが来た形跡は見当たりません。SNSサイト「豆瓣」を見てみるとこれがきっかけで読者が爆発的に増えたということもなく、2014年に原書が出版されてから一定の頻度で好評のレビューが上がっています。


 


しかし、『1367』ブームと関係ないとは言えない話もあり、作者陳浩基(サイモンチェン)が過去に2回島田荘司推理小説賞を受賞した『遺忘刑警(日本語タイトル『世界を売った男』)が中国大陸で出版されるらしいです(あくまでも伝聞)。


 


島田荘司推理小説賞受賞作の中国大陸での出版は第1回受賞作『虚擬街頭漂流記』以降ありません。第5回受賞作の『黄』は作者が大陸の人間だったためか大陸での出版も早かったのですが、台湾や香港の作家の作品はなかなか大陸で出版されません。


 


『遺忘刑警』の大陸版出版が、今後島田荘司推理小説賞受賞作品の出版を促すことになるのか、それとも『1367』出版の布石になるのかは不明です。『1367』の最終話で1967年の香港暴動を書いているため大陸での出版はないだろうと言われています。


 


しかし香港では本書の映画化も決まっていると言いますし、だとしたら映画が何らかの形で大陸に入ることでしょう。そもそも本自体、タオバオとかを使えば香港や台湾から輸入できますし。


 


ですので、大陸版の出版は不可能かもしれないけど、大陸でも台湾や香港の文化を楽しめるチャンネルは今後も引き続き残してほしいなぁと思いました。


 

 


今夜宜有彩虹』(今夜は虹が出そう)


 


 


 


中国ユーモアミステリ(バカミス)の旗手・陸燁華の新刊であり、『超能力偵探事務所』とは異なるシリーズ?らしい。


 


二つの視点が交互に展開するストーリーはなかなか核心的な地点にたどり着けず、どのようにまとめたら良いのか悩む内容だった。


 


 





落ちぶれてホームレスになってしまった「オレ」はある日、川で身投げを目撃する。身投げした場所に行ってみると、「警察には通報しないでください。家にあるお金は差し上げます」というメッセージが落ちていた。そこでその家に行ってみると、次は「別荘に行け」というメッセージ。


ところ変わってホテル上海花園酒店の「彩虹楼」では喫茶店従業員の沈氷月が小説家の丁と編集者の趙と共に死体を発見する。ホテルの一室に横たわるその死体はホテルのオーナー呉家元のもので、不思議なことに死体は六面鏡で囲まれていた。現場に残された不思議な暗号と踊るピエロが書かれた紙切れ。探偵に扮した趙編集者は現場のおかしな点を次々と指摘する。





 


 


どうやら「オレ」の宝探し的なハードボイルド小説部分と沈氷月を主人公とする一般的なミステリー小説部分は軸が異なっているらしい。しかし一応小説を読んでいる身としてはこの二つの物語がいずれどこかで交差するだろうと身構えるのだが、読み進めても一向に交わる点が見当たらない。


 


まさか村上春樹の小説じゃないんだから重ならないまま終了ということもあるまいと不安になってきたところに奇人編集者趙によって二つの世界が結び付けられる構成も見事だし、その余りに馬鹿馬鹿しいロマンチックなオチには本書を「バカミス」と分類して良いのだろうかという疑問すら生じる。


 


 


 


陸燁華は本書後書きでこのストーリーを書くきっかけになったインスピレーションを書いている。ちょっと翻訳して引用してみたい。


 


 


…中略…ありうる「意外な犯人」はほとんど書き尽くされてしまった。探偵が犯人、警察が犯人、語り手が犯人、ひいては読者が犯人という作品まであるが、しかしちょっと待ってほしい。まだ誰も「犯人」が犯人という作品は書いていないのではないか?

 これに思い至ったとき、ストーリーのトリックも自然と誕生した。物語が3分の1進んだ段階で探偵が犯人を指摘する。しかし「作者はそいつが犯人だと言っている」ことと「物語がまだ3分の2も残っている」という事実を組み合わせることによって、読者に「コイツは絶対に犯人じゃない」と思わせる。


 


 


一度犯人だと指摘された人間が最終的にやっぱり犯人だったという展開が果たしてまだ誰も「書いていない」のかはわからないが、その後の文章でここ最近とりわけ印象に残ったミステリーの手法に触れている。それは「突然推理」(原文ママ)だ。


 


 


「突然推理」とは何もおかしなことが起きていない状況で、探偵が突然犯人を当てることだ。聞くだけなら非常にスマートだが、実際のアイディア出しはたまらなく苦痛だ。
 普通のミステリーの構造はこうだ。問題が発生する→手がかりを探す→手がかりと問題を組み合わせる→犯人を指摘する。難点は3番目にあり、前2つは3番目に合わせて調整することもできる。
 しかし「突然推理」は、手がかりを探す→手がかりを集めて問題を指摘する→手がかりと問題を組み合わせる→犯人を指摘する。という構造だ。重要なのは解答部分ではなく、何が問題なのかすらも自分で推理しないといけない点だ。
 
 「突然推理」については優秀な2作品をモデルにできる。梓崎優の『冰凍俄羅斯』と時晨(中国ミステリ小説家)の『緘黙之碁』(沈黙の碁)だ。


 


 


「突然推理」という聞き慣れない単語は字面から意味が大体わかるがしっかり把握することは難しい。彼の言う事件の手順は、事件が起きた現場に異常があっても、それが何故異常なのかきちんと説明しなければいけないということだろうか。例えば本作では事件現場の部屋の窓が本来なら開いているはずなのに閉まっていたということが事件を解決する鍵になっている。なにせこの「突然推理」はおそらく作者・陸燁華の造語らしいので(百度で検索しても全くヒットしない)、私が理解するにはまだ時間がかかりそうだ。


 


ところで陸燁華が参考にした梓崎優の『冰凍俄羅斯』は日本語に直訳すると『凍るロシア』になるんだが、これは短編集『叫びと祈り』に収録されている『凍れるルーシー』のことを指しているのだろうか。ちなみに、梓崎優の小説は中国大陸で正式な翻訳版がまだ出ていないようだが「民翻」(民間翻訳。ファンが個人的に非商業目的で翻訳した作品)がある。おそらく陸燁華はこれを読んで勉強したのだろう。


 


『超能力偵探事務所』しかり、チャレンジ性豊富な作品を出して着々と自分のキャラクターとスタイルを形成している陸燁華。本書解説で中国ミステリ小説家・陸秋槎も指摘しているが、凄惨さを感じさせない陸燁華のコメディ的なミステリーは中国ミステリの成長を見て取る格好の作品かもしれない。


 

『珈琲館里的驚奇派』(喫茶店の不思議なパーティ)

 

 

苦手な構成だったので個人的には評価が低い、ってか評価を下したくない、でも中国のSNS豆瓣では評価の高い一品。

 

 


鬼節(旧暦の715日。日本のお盆に相当)で何もすることなく家でダラダラしていた周斌、李昂、劉胖子(胖子とはデブの意味)の男3人は友人の楊麗華を誘って麻雀をしようと外出するが、楊麗華もまた友人の白香蘭、趙萱と女3人で遊ぼうとしていた。6人は喫茶店に入り、自分たち6人を登場させる殺人ストーリーを各自で披露して時間を潰すことを思いつく。順番に繰り出されるフィクションの中で殺され続ける6人。一つの話が終わるごとに6人の隠された関係性が明らかとなり、いつしか本物の殺人事件が発生する。


 

 

この話はいわゆる入れ子構造になっていて、作中の6人が即興(?)で創ったストーリーを披露し合い、各話の終わりに幕間が用意されそこで各人がその話の感想を言い合い、徐々に6人の隠された秘密や関係性が浮き彫りになるという展開です。そして中盤以降に6人のうちの1人が殺され、新たに登場した探偵役のキャラクターがフィクションであるはずの6人のストーリーから真実を見つけ出し、犯人を導き出すという安楽椅子探偵的構造を取っています。ストーリーの各話が独立していながらも殺人事件の発生から解決までの要素が一貫して込められていて、決してアンフェアではなく、事件を起こす前の人間の口から語られるフィクションに犯罪の証拠があるという作品です。

 

 

豆瓣でも高い評価を得ている本書のどこに不満があるかといえば、それは根本的に本書の構造にあります。長編小説が読みたくて買ったのに、なぜ作中で素人が創ったという体裁の短編小説を読まされなければならないのか。
 
 以前も赤蝶飛飛の『九度空間』という小説が、有名小説家の残した短編を聞きながら話の大筋が進むというもので、とりわけ面白くもない短編を作中の人物が「素晴らしい」と褒めまくる展開に辟易させられたものです。

 

それに比べると本書では作中人物に「また俺が被害者か!」とか「私のキャラがおかしい!」とか批判させているのでまだマシかと思います。(もちろんその設定は後半起こる殺人事件のために付けられたもの)

 

とは言え、昨今の中国ミステリ界隈では短編小説集が出しにくいと言われている、長編小説の方が版権を買われて映像化しやすい、などの状況を見てみると、長編小説を書く体力と構成力がない作者が書き溜めていた短編小説に手を加えてこういう入れ子構造の本を書いたのではないかと邪推してしまいます。

 

評価は高いですが個人的には受け付けなかった作品でした。

『氷血:零下30℃的刑偵現場』著:薩蘇

 

 

 

著者の薩蘇は日本在住の軍事史学者で専門は当然日中戦争(抗日戦争)時代。中国では小説家としてより歴史家として有名だそうで、知人の中国人も小説は初めて読むが専門書は大学で読んだと言っていた。

 

8月某日の新刊トークショーで薩蘇「私にとって歴史を書くのも推理を書くのも一緒」と言っていたが、本書を読むと果たしてこれも「推理小説」のジャンルに入れて良いのか疑問が湧いた。

 

本書は短編集だがここに掲載されている事件すべて中国で実際に起こった事件であり、実際の事件をモデルにした創作でもない。著者は、日中戦争従軍者で戦後は公安として主に中国東北部で起きた数多くの事件を担当した老丁という老人から聞いた話を小説仕立てで書いている。

表題作「氷血:零下30℃的刑偵現場(凍れる血:マイナス30℃の捜査現場)」19862月に吉林省で起きた実際の列車爆破事件を扱っており、老丁らをはじめとする捜査関係者の活躍や当時の捜査方法や事件背景などをつぶさに描写している。おそらくそこには多少の誇張はあれども虚偽はないだろう。

 

老丁が語る近代の事件簿は非常に面白い。「西辛荘的『邪門』殺人案(西辛荘の『異常な』殺人事件)」は検視の結果明らかに他殺であるにも関わらず被害者の父親が「事故だ」と主張し、そればかりか他の住民まで「事故だ」と言い張り、ついには被害者の父親が出頭するという有様で、村単位で何かを隠している様子に薄気味悪さを感じさせる。

また「吊死鬼島血案(首吊り島殺人事件)」では冒頭で作者と老丁がテレビを見ていると、日本兵役を演じる日本人俳優が「監督から雪原の中で強姦シーンを演じろと言われたが、あんな寒いところでケツを出してそんなことするヤツいないだろう」という愚痴から物語が始まる。この日本人俳優とはおそらく渋谷天馬のことを言っているだろう。

 抗日ドラマで悪辣な日本兵演じた日本人俳優

ちなみにこの「吊死鬼島」とは敗戦時に日本兵が集団自決した場所らしい。

このように舞台が中国東北部であることから、老丁の語る話には日本軍そのものこそ出てこないが、あちこちに戦争の残滓を感じさせる。

 

 

ただ本書後半部分に掲載されている194050年代の国共内戦による国民党の匪賊との戦いは冗長で読むのに疲れた。これを後半に置いているから恐らく作者が本当に書きたいドキュメントはこっちなのだと思うが、パターンとしては「悪しき国民党の暴徒が勇猛果敢で正義感溢れる共産党に敗れる」しかないのだから、私のような非共産党員にとっては本の中で如何に銃撃戦や知略戦を繰り広げようとも退屈でしかない。

 

中国では195060年代ぐらいに国共内戦を題材にしたミステリ小説ばかり生まれたが、その大半がミステリ小説とは名ばかりの「反特務(反スパイ)小説」ばかりだった。

本当にあった事件を小説化したドキュメンタリーが果たしてミステリ小説なのか。それはただのドキュメンタリーなんじゃないのかと思うが、中国のミステリ小説史を見ると公安や警察や共産党の活躍を描く作品もミステリ小説としてカウントしても良いのかもしれない。


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