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HN:
栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
37
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

 Mail: yominuku★gmail.com
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このブログは、友達なんかは作らずに変な本ばかり読んでいた二人による文芸的なブログです。      
 筷 怪談競演奇物語

 

 

 

 三津田信三や陳浩基といった日本、台湾、香港の5人の作家が「お箸」を題材にしたリレー小説を繰り広げるというホラーミステリー集だ。どうでも良いけど、リレー小説って中国語で「接龍小説」って書くの、カッコいいなって思った。

 

 以下、ラインナップ

 

『筷子大人』(おはしさま)
       三津田信三 翻訳担当:RAPPA

『珊瑚之骨』(サンゴの骨)
      (台湾)薜西斯 

『咒網之雨』(呪いのネットに降る雨)
      (香港)夜透紫 

『鱷魚之夢』(ワニの夢)
     (台湾)瀟湘神 

『亥豕魯魚』(間違いと混乱)
     (香港)陳浩基 

 

 (注)『おはしさま』のタイトルは三津田信三のツイートを参考し流用。それ以外は仮訳。

 

各話あらすじ紹介

 

 『筷子大人』(おはしさま)

 あるパーティに遅れてやって来た雨宮里深と名乗る女性が、今から約20年前、彼女が小学5年生だった頃に体験した事実を語るという体裁の怪談的な短編。

 春休み明けに関西からやってきた音根(ねこ)君という少年。音根君は給食時、手作りの竹のはしをご飯に突き刺した。それが不吉な習慣だと知る私は、音根君にわけを尋ねると、彼は「おはしさま」という儀式とそのやり方を教えてくれた。

 ちょうど叶えたい願いがあった私は親らを説得してこの儀式を続けていると、ある夜から定期的に不思議な夢を見ることになる。道場のような場所で、音根君に似た男子など9人の子どもたちが寝ているという内容で、夢を見るたびに誰かが死んでいった。

 

 『珊瑚之骨』(サンゴの骨)

 占い師海鱗子のところに、過去に起きたはしにまつわる超常現象について程という女性が相談にやってくる。分野違いだと遠回しに追い返そうとする海鱗子に彼女は、「あなたから答えを聞きたいのです」と言い、15年前の昔話をする。

 好きな人と同じはしを使い、相手のはしとこっそり交換し、3ヶ月間相手にバレなければ両思いになるというおまじないが流行っていた中学校で、程さんは「天使」と呼ばれているおとなしい少年のことが気になり、彼のはしを狙う。だが彼のはしは、頭がチェーンで繋がっていて、しかもそれをいつも胸元にぶら下げているので交換の隙がない。しかも高価な珊瑚でできている真っ赤なはしで、同じ物を用意することなど不可能だ。どうしても貸してほしい程さんは彼に頼むが、このはしは王仙君という神様が宿っている大切な物だから絶対に貸せないと言われる。そこで程さんはチェーンで繋がっているはしの片方を盗む方法を考え出す。

 

 『咒網之雨』(呪いのネットに降る雨)

 林麗娜、龔霆聰、李一志、葉思婕の4人はライブチャンネルを運営するネットインフルエンサーグループだった。林麗娜の恋人の龔霆聰はチャンネルの登録者を増やすため、「鬼新娘のはしの呪い」という都市伝説を捏造する。鬼新娘という幽霊が出ると言われる新娘潭に、ご飯を盛ったお椀を置き、呪う相手の名前を書いたはしを刺せば、鬼新娘がその魂を地獄に連れて行くという内容だ。

 この都市伝説は香港で大流行し、ネタバラシをした龔霆聰は一躍有名人になったが、同様に大量のアンチを生み出し、彼らの事務所には呪いのはしまで届くようになった。そして呪いなどないと言い張る龔霆聰は、その証拠として差出人不明の呪いのはしを使って生配信中に食レポをするが、突如苦しみ出して苦悶の表情を刻んだまま絶命する。

 アンチの矛先は残りの4人に向けられ、特に龔霆聰の恋人だった林麗娜はネットでの誹謗中傷に悩まされていた。そんな中、林麗娜の携帯電話に、「鬼新娘」を名乗る人物からメッセージが届く。

 

 『鱷魚之夢』(ワニの夢)

 民俗学や妖怪に詳しい推理小説家の「私」は、出版社が台湾、香港、日本の作家を集めて企画した「はしにまつわる怪談」をテーマとするリレー小説に参加し、4話目を担当することになる。そして、はしのタブーに関するイベント終了後、張文勇という記者から「おはしさま」という日本の怪談を教えられる。それは彼女が敬愛するM先生が自身のTwitterで言及していた怪談だった。

 張文勇は、台湾や香港でもはしにまつわる都市伝説が流行っていることを伝えただけでなく、「おはしさま」の夢に出てくる空間の間取りが、台湾に昔あって今はダムに沈んでいるBという国立小学校の構造に酷似していると告げる。その小学校では以前、9人の5年生のうち8人が行方不明になるという怪事件があった。そして「おはしさま」の儀式中の夢に登場する子供も9人。真相を確かめるため、「私」は張文勇とともにすでにB小学校へ向かう。

 

 『亥豕魯魚』(間違いと混乱)

 「おはしさん」の儀式を行い、84日間生き延びた張品辰が叶えたかった願いとは、交通事故で意識不明のままとなっていた聶暁葵の目覚めだった。当時の事故の原因が自分であると責めた張品辰は、香港にいる探偵の阿文から「おはしさん」の儀式を聞き、無事成功させて聶暁葵を目覚めさせる。だが、自称九龍(クーロン)一の名探偵で、超常現象を専門に研究する阿文は、聶暁葵の事故に何らかの悪意が働いていると言う。3人ははしの呪いを終わらせるべく「おはしさま」と対決する。

全体的な感想


 「おはしさま」という儀式と化け物、84日という日数、はしをご飯に立てるというタブー、左手にできる魚型のアザ、などが一番手の三津田信三が『おはしさま』で提示した設定。以降、各作家が設定の取捨選択をしながら、再び設定を付け足していき、特に2話目の薜西斯の『サンゴの骨』で登場したサンゴ製の真っ赤なはしが、「おはしさま」と同様にこのリレー小説の重要な鍵となる。

 5作品の中で最もリレー小説から独立していると感じたのが、3話目の夜透紫の『呪いのネットに降る雨』だ。ここには「おはしさま」もサンゴのはしも出ず、作成者が分かる創作の都市伝説としてはしにまつわる怪談が登場するだけだ。重要なテーマは香港でも問題になっているであろうネットリテラシーや配信動画の過激性などであり(同じ香港の作家・陳浩基の『網内人』を想起させる内容)、都市伝説(デマ)を故意に広めた側への責任を問う内容になっている。


 個人的に一番がんばっていると感じたのが、4話目の瀟湘神の『ワニの夢』だ。1話の「おはしさま」の怪談を広め、2話に登場する珊瑚のはしに願をかけた張本人として登場する。そればかりか、2話『サンゴの骨』の主要人物や、「少年」の元父親・張文勇や母違いの弟・張品辰などの関係者にキャラクターを設定して続々再出演させている。さらに三津田信三(作中ではM先生)も主人公のヒントとなる手紙の送り主として作品世界に引っ張ってくるなど、プロ意識とファン意識を両立させた作品だ。さらに「女性の権利」、過去にあった日本の台湾統治や買春ツアー、人権を無視した台湾の悪習などの社会問題にまで深く切り込んでいる。


 そこで困ったのが、トリを飾る陳浩基だろう。自身も本書のあとがきで、「当初は…(中略)前4作品を包括した作中作を書き、メタフィクションの手法を使って各作品の要素をつなぎ合わせ、自由なラストを書くことが出来ると思っていた。しかし甘すぎた。瀟湘神氏の4話は最初からメタフィクション要素を使っていたため、計画が実行できなくなった」と書いている。陳浩基からすれば、なんで4話目でまとめてるんだよ、とツッコミたくなっただろう。そこで陳浩基はリレー小説の最終的に当たる『間違いと混乱』で、ホラーよりファンタジーに寄っている中華圏どころかアジア全体を包括するような大作を書いた。


 5話目『間違いと混乱』は非常にペダンティックで、中国の神話から歴史やら文化やらの要素をこれでもかと言うほど詰め込まれている。しかしこれらは全て、5話目にして脈絡なく登場した重要人物・阿文のキャラ設定に必要不可欠だった。『間違いと混乱』は、3話目の『呪いのネットに降る雨』に登場する交通事故被害者の少女と、4話目の『ワニの夢』に登場する青年・張品辰が「おはしさま」を悪用している人物を探すという内容だ。少女も青年も前の話で非常に重要な役割を帯びていたが、本作で最も重要なのが真の主人公・阿文だ。ここでは中国の神話や歴史に基づいて、「おはしさま」という化け物はそもそも何者でどこから来たのかというアンサーを出し、それに対抗できる阿文という探偵の正体が明かされるが、この謎の解き明かしの衝撃は本書屈指と言って良いのではないだろうか。まるで『クトゥルフ神話』のオマージュを思わせるような展開であり、陳浩基ってこんなファンタジーも書けるのかと驚いた作品だ。


 全体的には非常に満足のいく内容だったが、一点だけ構成上のやむを得ない不満点があった。それは、1話目が日本人作家が書いた日本の作品であるため、後ろの4人が作中に何らかの形で日本について書いているのに対し、1話目がボールを投げる役割しかできなかったことだ。

 物語の舞台が日本から台湾と香港へ移り、4人の作家は実際の距離や文化的な隔たりを考慮して台湾や香港の歴史や文化に根ざした作品を基礎から再び考えなければならなくなった。ご飯にはしを立てた「一膳飯」を不吉と感じる気持ちは台湾や香港の人々にもあり、その行為やビジュアルの不吉さはどの5作品全てに通底している。しかし三津田信三の『おはしさま』では、その行為の視覚的恐怖が強調されていたのとは対照的に、歴史や文化の描写が日本に留まり、国外に及んでいなかった。もし三津田信三が2話目以降を担当していたら、台湾や香港の作家から受け継いだ設定をどう利用しただろうか。

 また、日本の作家から台湾・香港の作家にバトンを渡すという本書の行為は、日本と中華圏(またはアジア全体)における関心の差を表しているようにも見える。現在、日本の文化は中華圏やアジアに受け入れられており、特に若者は日本に関する知識を吸収しているが、アジアの最新文化に興味を示している日本の若者は相対的にまだ少ないと思われる。この発信と受信の差が近い将来大きな溝をつくる気がしてならない。もし本書が日本で出版されることになったら、台湾や香港文化の輸出になり、華文ミステリー読者とは異なる層を獲得できるのではないだろうか。




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