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HN:
栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
36
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

 Mail: yominuku★gmail.com
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このブログは、友達なんかは作らずに変な本ばかり読んでいた二人による文芸的なブログです。      

帯に「中国版Xファイル」と書いていたから、ファンだった身としてちょっと期待したんだが、いまいちな内容だった。ってか調べたら、今回買ったのは新装版で、もともとは2009年に出た本だった。二重に騙された気分だ。


 


 





複雑怪奇な事件を解決して市民の不安を解消することを目的として、公安庁は極秘に「詭案組」(不可思議な事件の捜査科)を設立した。この部署に回された慕申羽をはじめとした個性的な面々が、幽霊や化物の仕業としか思えない凶悪事件を解決していく。





 


「中国版Xファイル」と銘打たれている以上、気になるのは作品内で起きる事件が本当に超常現象による物かどうかということだったが、残念ながらみな「人間」が起こしたものであった。一般的なミステリー小説は、一見すると人知を超えた実現不可能な犯罪が捜査によって徐々に現実的になっていくが、本作の事件は真相が明らかになっていっても一般人では再現不可能な「特質性」がある。ただ、その不可思議性に甘えて非論理的で非現実的な話を書いている感も否めず、人間がそんなペースで人を殺して、しかも証拠を残さないなんていうことはあるのか、とか、いくら常人とは違う体だと言ってもそんな生活で生きていけるのか、とか気になる点は多々あった。


 


しかし最も気になる箇所は、キャラクターの設定を生かしきれていないという点だろう。本作には普通の警察小説では絶対登場しないような警察官が出てきて、例えば主人公の慕申羽は過去の事件から足に怪我を負っていて、警察としての将来は期待されていなかったが、手品のプロで手先が器用だ。「詭案組」は他にも、非常に好戦的な女性警官、スカウトされた元ハッカー、特殊能力を持つ小柄な女性など、格別の個性や過去を持っているキャラクターがいるが、本書では話が進むほど出るキャラが減っていくのだ。


 


それもそのはず、本作は当初からシリーズ化や映像化を見越して、色々なキャラに様々な過去を持たせて、小出しにしていって一つの大きな物語に仕上げるはずだったのだ。多分。


 


結局のところ、物語として整合性が取れない箇所を「超常現象」で誤魔化しているような作品で、ホラーとしてもミステリーとしても突出できていない作品だった。あと、そもそも中国で『Xファイル』ってそんなに有名なんだろうか。


 


 


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中国の南宋(1127年~1279年)に実在した官僚の宋慈1186年~1249年)を主人公にした歴史ミステリー小説短編集。


 


 


ウィキペディアによれば、宋慈は南宋で実在した官僚で、数多くの事件の真相を明らかにし、無実の人々の冤罪を晴らした君子だったらしい。彼が著した『洗冤集録』は世界初の法医学書と言われており、当時の検死方法などを記した内容は他国や後世にも影響を与えたそうだ。


 


本書には、表題作『雕題国的宝蔵』の他に『剥皮尸』『奇肱国的飛車』『長股国的奇技』の計4作を収録。長汀県(福建省)に知県(県の長官)として赴任してきたばかりの宋慈が、頼りになる部下たちと共に奇妙な殺人事件を捜査するという内容だ。知県という絶対的な権力者である宋慈にとって捜査自体は難しくない。大体の捜査対象は協力的だし、捜査が何者かに妨害されるということもない。捜査の過程をスリムにするために、このように権力を持つ探偵を主人公にするのは短編ミステリーでは特に有効だろう。


 


タイトルに出てくる雕題国、奇肱国、長股国はどれも古代中国の『山海経』などに記された伝説上の国で、作品にもそれにちなんだ設定やキャラクターが登場する。しかし超常的な展開にはならないので、そこはミステリー小説としての節度を保っている。


『雕題国的宝蔵』は、火災で燃えた邸宅から出てきた死体から所持品が消えており、その焼け死んだはずの人物が旅籠で刺殺死体で見つかるという話。『剥皮尸』は、主人と召使いが旅の道中に殺され、召使いは足の皮を剥がされていたが、動機が不明なので捜査を進めるという話。『奇肱国的飛車』は、小島で武器開発者とその弟子が何者かに殺され、弟子が首無し死体で発見される。海賊の仕業かと疑われたが、動機は開発された武器だということが分かり、疑惑が弟子たちに向けられるという話。『長股国的奇技』は、身売りされた娘が2階から落ちて死ぬという事件が起き、塩を専売する商人が犯人かと思われたが、関係者の証言を調べると他の犯行動機が浮かび上がるという話。


4作の収録作品の中で、あるトリックが頻出するのはちょっと辟易したが、大本となるストーリーはどれも歴史的魅力を感じられて、短編ではもったいないほどの世界観だった。特に『奇肱国的飛車』は南宋時代に実際に発明されたとされる「突火銃」を巡る事件や敵国の陰謀が描かれ、空を飛ぶ車まで出てきてとてもロマンにあふれていた。


 


 


中国には、唐代に実在した官僚の狄仁傑や北宋時代の政治家の包拯など当時の司法の世界で腕をふるった賢人がおり、現在でも探偵の題材として用いられている。しかし(当時としては)科学的な手法を用いて、「検死」というジャンルで活躍できる古人までいるとは思わなかった。中国の人材の層の厚さに驚くばかりだ。
   惜しむらくは彼らがみな別の時代に生きていたことであるが、もういっそのこと中国古代の探偵を一同に集結させた架空歴史ミステリーでも誰かに書いてもらいたいものだ。


 


 


 


探偵・陳黙思と推理小説マニア・陸宇コンビのシリーズ第3作に当たる。前作『鐘塔殺人事件』に続き、「中国では『殺人事件』ってフレーズが入ったタイトルの本は出版できないんだよ」という風説を引っくり返す強気なタイトルだ。


  





殺害された有名な推理小説家・界楠の遺品にあった招待状に興味を惹かれた陸宇と陳黙思は、彼に代わって日月山荘へ行く。円柱形の2階建ての日館、五芒星の形を構成する5本の柱、月形の池を持つこの場所では、10年前に天体愛好家の集まりのときに死亡事件が起きており、そして今回集められたのは当時の関係者たちだった。外界から孤立した別荘で殺人事件が次々に起こり、陸宇たちは何者かが10年前の事件の復讐をしているのではないかと疑う。





  


 

 日月山荘の全体図
 

  


本書では『日月星殺人事件』と『時間の灰燼』の2つのストーリーが交互に展開する。前者は日館の2階で陸宇や陳黙思たちが殺人事件に巻き込まれるパートで、後者は日館の1階で天文愛好家たちがペダンティックな天文学知識を話し合うというパートだ。天文愛好家たちは、ジュピターやマーズなどの惑星の名前を名乗り、本名を伏せられている。2つのパートを交互に読んでいくと各人の名前を予想できるようになっているが、この予想というのが曲者で、作者側から確固とした言及がないのに勝手に姿を想像した時点ですでに作者の罠にハマっている。


 


 


 陸宇たちが住む日館2階


 


 


 天文愛好家たちが住む日館1階



何しろ『時間の灰燼』のパートは、古今東西の天文学知識の羅列であり、その知識は本編とほとんど関係がない。古代中国で宇宙はどのように考えられていたかとかいう知識を披露されたところで読者は退屈なだけであり、そのパート自体は本編の『日月星殺人事件』パートを補完するだけのサブストーリーにしか見えない。この点はいくら好意的に見ても、やはり水増しの感が否めない。しかし、物語の舞台が2つに分かれているという物語構造の妙は、最後の最後で効果を発揮する。
 
 2つの世界の軸は、実は最初から2つの世界を貫いていたのである。


 


 


・剛腕の力技トリック


雪に囲まれた山荘で起きた殺人事件なのだから、雪上や死体の近くに足跡がないのは言わばお約束だ。そのトリックに対して陸宇が出した推理は、物理学を利用した机上の空論にしか見えない方法。対する陳黙思は実際に行動することで、誰にでも実行可能な方法を提示する。


最初に複雑でほとんど実現不可能なトリックを紹介してから、心理的盲点を利用した単純な方法を見せるというやり方は、ミステリー小説ではもうほとんど珍しくない。提示されたトリックの是非の判断は料理漫画と同様で、複雑で凝っていればいるほど正解から遠く、シンプルな方が好まれ、先に出てきた推理は後に出てきた推理に負けるのだ。


陸宇と陳黙思を経て、分かりやすく簡素化した本書のトリックは最後に、ダイナミズムを備えてコロンブスの卵を思い出させるこれ以上ない簡単な方法で読者に提示される。


謎解き部分を読んだ時、呆れたのか感心したのか自分でも分からないが、とにかく笑ってしまった。あまりにも大胆過ぎるので、現実にはというか、普通の人間が登場する小説では不可能なトリックだと思ったが、ミステリー小説のトリックで再現性などあまり重要ではないだろう。


 


・リアリティを排除


本書は中国を舞台にして本格ミステリー小説の体裁をなぞっているがゆえに、不自然な点が多々ある。中国で日月山荘という館を建てることは可能なのか、という根本的な問題は置いておいても、世界観の設定が現在の中国とだいぶ食い違っているのだ。


まず、殺害された界楠は有名な推理小説家だったようだが、現在の中国に有名な推理小説家がいるという世界観がとても奇妙だ。界楠は知る人ぞ知るというレベルではなく、一般的に認知された推理小説家だったようだが、トリックメインのミステリーなんか書いて一般受けしている有名推理小説家なんて中国にはまだいない。


 


さらに、推理小説をたくさん読んでいる陸宇が、外界と孤立した山荘に閉じ込められた際に、「まるで吹雪の山荘ものじゃないか」とツッコミを入れるシーンがある。しかしそういう視点を持てるのであれば、疑心暗鬼になって誰も信じられなくなり一人で自室にこもる人間や、恐怖のあまり発狂する人間に対して、「それは死亡フラグだぞ」と警告することもできたし、次の被害者を予想することも可能だろう。陸宇は作者と同等の視点を持っているくせに、深刻な事態になれば、本格ミステリーなんて言葉すらを忘れてしまったかのような態度を取る。


現代中国とは異なる架空の中国、もっとはっきり言えば、本格ミステリーが一般常識になった中国を舞台にしているのだから、よりメタ的な描写を入れたとしても、これ以上作品世界を壊すことはないだろう。


 


中国ミステリーの「本土化(ローカライズ)」を目指す意気込みは、最近とんと聞かなくなったが、やっぱりこういう意識は大事だなと再確認させてくれた一作だった。ミステリーがメジャージャンルになっている架空の中国を舞台にするなら、もっと徹底的にメタ的要素を入れるか、キャラクターをもう少し人間的に描くかをしてほしかった。トリックの衝撃はともかくとして、内容に対する評価は、現代中国に生きる20代の作家が数十年前の日本の本格ミステリーを中国で再現してみた、程度だった


 


中国の作家たちは中国ミステリーというジャンルで、中国の実情を背景にしたミステリーを書くことと、トリックに凝ったミステリーを書くことを、割合に若干の偏りがあるとは言え、双方の要素を作品に反映させていると思う。その中で、本書の作者・青稞は、後者を特に重視し、トリックのためにリアリティを捨てるという尖り方を見せている(ちなみに前作『鐘塔殺人事件』では、中国の山奥の館に暮らす日本人科学者一家が登場した)。しかし将来的には、中国ミステリー界隈の実情を取り入れた、中国でしか書けないようなゴリゴリの館ミステリーを書いてくれるかもしれない。

 


 


『ゴジラ対メカゴジラ』的なタイトル。推理小説好きな文学少女陸秋槎が書いた推理小説の謎を、孤高の天才数学少女韓采芦が数学的手法を使って解いていくという短編集だ。 


 





高校の校内誌に自作の推理小説を載せ、生徒に犯人当てをさせた陸秋槎は、送られてきた数々の解答が自身の設定した解答と全然違うことにショックを受ける。しかし、推理に穴があったり、結論が牽強付会だったりする解答を読んでいくうちに彼女は、自分が設定した解答も唯一絶対ではないことに気付く。陸秋槎は友人の陳姝琳から、完全な推理小説を書くために数学の天才・韓采芦に意見を貰えば良いと薦められる。そこで韓采芦に次回の校内誌に載せる小説の添削を依頼したところ、彼女は「消去法」を使っていとも簡単に犯人を当てたばかりか、作者の陸秋槎でも想定していない犯人を次々挙げるのだった。(『連続体仮説』から)





 


 


・「真相」は重要ではない


 


本書では、高校生の陸秋槎が書いた推理小説を、読者を含む韓采芦らが読んで、犯人を当てるという「作中作」のスタイルが使われている。


『連続体仮説』では、本来なら作者である陸秋槎が設定した人物以外に犯人がいないはずが、作品に瑕疵があるせいで2人目、3人目の犯人の存在を許してしまうことになり、作品を破棄するかどうかの瀬戸際に立たされる。『フェルマーの最後の事件』では旅行先のフランスでちょっとした事件が起きるが、本筋はタイトルと同名の短編小説の解決にある。『不動点定理』では韓采芦の後輩の黄夏籠が書いた推理小説を読み、彼女が抱えている問題に迫るカウンセリング的な内容。今年書き下ろした『グランディ級数』では、喫茶店で韓采芦を含む数人のクラスメイトと小説内で起きた密室殺人事件の「最も面白い」解決案を討論しているところ、店内で本当に密室殺人事件が起きるというもの。


 


 


作中では言及していないが、後書きで元北京大学ミステリー研究会員の葉新章も指摘しているように、本書が扱っているのは「後期クイーン的問題」だ。この問題とは、「小説で導き出された真実が本当に真実なのか、小説の中では証明できない」という提起である。日本のミステリー読者には知名度が高い問題だが、中国ではまだマイナーらしく、この問題を組み込んだ作品も非常に少ないらしい。そのせいか、後書きを担当した葉新章もこの問題に対し、数々の引用をもって説明しようとしている。


 


小説では、ミステリー小説の作者であり、その中に登場する謎を解決する探偵でもあるはずの陸秋槎が、韓采芦に探偵役を任せたところ、限られた真実の中から作品の創造主である陸秋槎でも思い付かなかった犯人が登場する。新作の『グランディ級数』において、陸秋槎は犯人当てを半ば放棄し、一番面白い推理をした人間を勝者とする。2014年発表の1作目から2018年作の4作目までで作中時間が経過しており、陸秋槎の心の動きも変化しているが、一方でそれはこの本の作者である陸秋槎自身の考えの変化を表しているのかもしれない。


 


 


 


・百合のために推理を犠牲


 


『文学少女対数学少女』というタイトルを見て、『文学少女和数学少女』(和は「と」「アンド」という意味)にしなかったのは何故だろうかと考えた。なぜ対立やVSを表す「対」という言葉を使って、2人の少女の間に線を引いたのだろうか。


 


作者の意図は終盤ではっきりする。本書は陸秋槎と韓采芦の「ガール・ミーツ・ガール」のストーリーであるのだが、その出会いをより喜んでいるのは実は韓采芦の方なのだ。韓采芦にとって、陸秋槎は初めての友達であり、自分が取り組んでいる数学に初めて理解を持った仲間だった。だが一つ大きな問題があった。それは、韓采芦の数学能力と推理能力が陸秋槎では相手にならないほど強力だったことだ。「対」と書いておきながら、実際は陸秋槎のボロ負けだった。


 


では勝負は数学少女の勝ちなのかというとそれは違い、本当の勝者は『グランディ級数』で明らかになる。文学少女が一体誰と「和(アンド)」の関係を成立させるのかは、この作品が陸秋槎と韓采芦の話だと思い込んで読者にとってそもそも興味の範疇外にあっただろうだが表紙で、数学少女が右下に視線を落としているのに対し、文学少女がその視線に全く気付いていないばかりか数学少女を見ないように顔を背けているように、彼女らはペアになりえない。


 


『グランディ級数』では陸秋槎が自作ミステリーの解決編を完全に他者に委ね、彼女の受け身の姿勢がより強調されるが、彼女は推理小説のみならず、人間関係においても他者に決定権がある存在だった。つまり本書は、陸秋槎総受け本だったわけである。


 


作者の陸秋槎は前作『元年春之祭』や『当且僅当雪是白的』で百合的な犯行動機を持つ少女を書いてきたが、本書ではとうとう、目的のためには推理すらも犠牲にする少女を登場させた。「百合ミステリー」と「アンチミステリー」を両立させた本書は、中国では出版されることが特に少ない中国ミステリー小説短編集も、構成を丁寧に考えて長編小説と同様の一貫性を持たせていれば、市場で十分に通用するということを証明した。


 


・余談


本書、特に『グランディ級数』では中国人っぽくない名前のキャラが数多く登場するが、実はそこに作者・陸秋槎の遊び心が込められている。該当作では喫茶店の店長、各友人全員に日本の芸能界にちなんだ名前が付けられている。これは日中両言語に詳しく、かつ日本のアイドル事情を知っていなければ分からない高度なイタズラだ。登場人物の言動全てを本筋の推理に関係させる無駄のない作風は、創作に対する作者の緊張感を感じさせるが、趣味が垣間見られる「おふざけ」のおかげで読んでいる方はちょっと肩の力が抜けるのである。

 


 


ふざけたタイトルをしているが、現在の台湾の軍事情勢もうかがい知れるスパイ小説風のミステリー小説だ。


 


 





刑事局の暴力団犯罪取締科に所属する老伍は、退職まで12日というところに次々と死亡事件に対応することになる。自殺に見せ掛けた海軍軍人の他殺体、陸軍将校の銃殺死体が発見し、国防部が絡んだ事件を退職前に解決しなければいけなくなった老伍にさらなるプレッシャーが襲う。イタリアのローマで、台湾の政府要人が射殺されたというのである。捜査を進める中で老伍は、台湾政府の軍事機密と台湾に古くから暗躍する秘密組織の存在に迫る。イタリアを含む欧州各地を逃亡する台湾人スナイパーと、台湾で愚直に捜査を進める老刑事が真実に辿り着くまでを描いた、ハードボイルド小説。





 


 


炒飯狙撃手」とは炒飯を武器にして敵を射殺するスナイパーのことではない。台湾軍に所属していたスナイパーで、除隊後にイタリアで炒飯屋を営んでいた小艾(本名・艾礼)はある人物の狙撃を頼まれる。しかし彼がイタリアで射殺したのは、台湾の総統府戦略顧問の周協和であり、彼を暗殺するために差し向けられた刺客は、かつての戦友・陳立志だった。小艾は、自身が何者かにハメられたと考え、欧州を渡り歩きながら手がかりを探す。


 


一方老伍は、自殺に見せ掛けて殺された郭忠為と陳立志の体に、甲骨文字の「家」という入れ墨があることから、2人には何か共通点があると考え、過去を探る。すると、小艾も含む彼らは元孤児で、超法規的な形である人物の養子になっていたことが分かる。実は彼らは台湾に古くから伝わる、疑似家族的秘密結社のメンバーだったのだ。家族のような秘密組織と聞くと、マフィアを連想するが、本作に登場する組織は歴史の影に隠れているが非合法組織というわけではない。孤児の段階から組織の一員に育て上げるから、まるで忍者だ。作中では、「武侠小説に出てくるみたいだ」と形容されている。


 


物語は台湾の老伍とイタリアの小艾の2人を主人公にして進む。しかし、捜査によってどんどん謎が明らかになっていく老伍側と異なり、小艾側は彼自身の経歴すら謎に包まれたかのように曖昧だ。誰が味方なのかも分からず、確信もなく外国を渡り歩く描写はまるで霧の中を歩いているかのように獏としている。そこから徐々に明かされるのが、台湾の軍事利権という現実的な問題もあれば、孤児を引き取って命令に忠実な軍人に育て上げるという仰天の秘密組織まで出てくるのだから、話のスケールは大きく、底が深く、また歴史的長さも感じさせる。


 


本書のメインテーマは「家」だ。小艾たちは、自身の体に文字として刻んでいる「家」を大事にしており、その秘密組織には血の繋がりがないが、一般の家庭や組織以上の掟が存在する。老伍も、家に帰れば家庭の問題に悩まされ、家の一員であることを嫌でも気にしなければならない。被害者にも家族がおり、老伍は捜査に協力させるために彼らの警戒心を解かなければならない。
 冒頭では、親の葬式を挙げずに年金を不正受給する事件が登場する。これは「炒飯狙撃手」の事件と直接関係はないが、「家」というテーマに密接に関係しており、作品のテーマを一つにまとめるために回収するべき伏線になっていた。


 


老伍の退職までのタイムリミットも解決に一役買っていて、カウントダウンが始まる頃になると老伍もなりふり構わなくなり、大学生の息子を事件に巻き込み、台湾軍のシステムにハッキングさせたりする。この凄腕ハッカーの息子が万能過ぎてご都合主義的だったが、重要機関のシステムに入り込めちゃう「緩い」空気感は気に入った。


 


表題に「炒飯」とあるだけあって、出てくる料理まぁまぁ美味そう。具が卵とネギのみの卵炒飯もそうだが、サンドイッチ、豆乳、肉まん、麺など、台湾人の慣れ親しんだ料理の数々が登場する。味に対する描写は特にないが、老伍らが仕事の合間や仕事中にそれらを食べている様子を読むと、刑事モノ小説という雰囲気が感じられて、アイテムを上手に使っている感じがする。


 


軍事利権問題と土着の秘密組織を中心にした本書は、全体的に台湾の湿り気を感じさせてくれた。






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